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MPCプレイヤーと名乗るまで・第三章

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MPCの大会ゴールドフィンガーキッチンでMPC演奏を見て根拠もなしに「アレならやれそう」と思い込み、MPCの訓練を始めるKO-ney青年。

DJの時はマジで何から練習していいか分からなかったが、MPCは何となくやるべき事は分かっていた。まずやり始めた事は、大ネタでもなんでもいいのでひたすらループしながらそれに合わせてドラムを叩く。それを毎日続けた。最初によく使ったのは「Got to be real」だった。元々ドラムがしっかり入ってる曲なので、自分の演奏がズレていればすぐ分かるのが理由。
右手でハイハットを8分で叩いてキープしながら、左手でキックとスネアを叩く。このフォームで8ビートを叩く所から始めた。どシンプルなビートなら上ネタをループさせながら演奏する事は意外とすぐに出来た。若干胸が躍る。

しかしちょっと複雑に叩こうとするとリズムが乱れる。16分の細かさでキックを「ドドっ」と叩くのが出来ない。ハットがつられてもたる。HIPHOPの基本リズムが出来ない。

どうやったらあんな風に叩けるんだ。

何かヒントが欲しくてHIFANAの映像を見たりしてみる。ダメだ。凄すぎて訳わかんねぇ。
次にドラムの教則DVDを買ってみる。タム回しとかは分かった気がするけど、ストロークがどうとかはMPCと全然関係ねぇ。

けれど、教則の先生が音を一つ一つ出しながらゆっくりと演奏しているのを観て、昔ハマっていた音ゲーを思い出した。
コナミのドラムマニアはまさに今やろうとしてることと同じ。
あの時も「片手でハイハットをキープしながら右手と足は別に動かす」みたいな思考が無理で、もっと単純に「最初はキックとハットを同時で、その次はハットだけ、その次はハットとスネアを同時…」という感じで、ダンスの振り付けを覚えるが如くやっていたら出来るようになった気がする。音ゲーの譜面は分かりやすく可視化されていたのでそのお陰もあったのだろう。
実家から持ってきていたPS2とドラムマニアを引っ張り出して、普通のコントローラーで遊んでみる。トレーニングモードで譜面をゆっくり流して、それを見てMPCに当て嵌める。という謎の作業を繰り返した。
すると前よりは手が動くようになった。最初からこうすれば良かった…とも思ったが、まずは形から入らないとこんな地味な練習は耐えられなかったろう。
今思えば、現在の俺のプレイにやたらタム回しが多いのは初期の練習法による影響が大きいかもしれない。

他にも珍妙なやり方を試しつつ、ただただパッドを叩き続ける日が続いた。

一日6時間ぐらいほぼぶっ通しでやってるものだから肩こりが尋常じゃない。でもそのお陰で、ごく僅かながら日々成長が体感出来るものだから楽しくて仕方ない。新しいことを始めるのはいつだって楽しい。よく「そんなに叩けたら楽しそう」と言われるが、全然出来ない頃から楽しかった。でなきゃ続かない。思うように手が動かなくても、1週間も同じ事をしていれば動くようになる。練習の効率は悪かったから今思えば成長はかなり遅い。でも遅くても確実に前進してる手応えだけは感じてる。そりゃあ楽しい。

出来る人から見たら失笑されるプレイしか出来なくとも、ステージでクールに演奏してる自分をひたすら妄想しながら練習した。
ちょっと飽きそうになったら楽曲制作に切り替える。そうしてる内に持ちネタも少しずつ増えていった。

ビートメイクの方も少しずつ装備を強化していった。小さな鍵盤(microKORG XL)を買って、MIDIの事もちょこっと勉強して、ちゃんとしたオーディオインターフェースも買って、きっちりPCと連動する事もちゃんと覚え始めた。と言うより、「俺はオールドスクールをリスペクトしてる!」を免罪符にして見ないふりをしてきた”やるべき事”としっかり向き合うようになった、と言った方が正しい。

その甲斐もあってか、2009年の終わりにYong Drunkersというグループに提供した曲が彼らのCDアルバムに入った。自分の曲がCDになったのは嬉しかった。その時、そのアルバムに同じように数曲提供しているビートメイカーが居た。音の質感やサンプリングするチョイスの渋さで異彩を放つ作り主のクレジットを見て驚いた。まだ20歳前のSTUTSだ。

この少し前にKMCに現場で紹介されていた。俺の作った東京WALKINGが好きだと興奮気味に話すその男は聞けばMPC1000を使っていると言う。おお!ようやくMPC使いの知り合いが出来た!
今も昔も変わらず、とにかく良い奴で話し易い男なのだ。ふわっとした性格でありながらも、揺るがない音の拘りを会話の端々から感じる。ただその時点ではどんなビートを作るのかまでは知らず、会う機会もなく時が流れていた。

そのSTUTSが自分達の曲が収録されたアルバム制作の打ち上げ的な場に現れ、初めてゆっくり話し込んだ。奴はMPC1000使いだったが、自分と似たような音楽の好みだったから話は弾む。「93 til infinityって、上ネタがS950でドラムはSP1200で作ってるんだってさ」なんて話を永遠してたような。

初めてのMPC仲間が出来たのは本当に嬉しかった。そして同時に焦りも増した。STUTS自身はこの当時の自分をどう思ってるか知らないが、俺から見るとこの時から「間違いない音を判断して選ぶ能力」を体に宿してるような男だった。現場ではもっぱら最年少であったが、音を聴いた事がある奴らは満場一致で一目も二目も置いていた。
年は4つ下だが、中学2年ぐらいからビートを作り始めていたらしいのでやってる年数はほぼ同じ。
だから一度も後輩だと思った事はない。この時からライバルのように思っていた。

身近にこんなすげぇ奴がいる。多分これからもっと出てくる。俺も急がないと。

そんな不安もMPCに向き合っている間は忘れる事が出来た。作っては叩いての反復を繰り返す。その間だけは、クラブのフロアを揺らす無敵のスターのようなマインドでいられる。

要するにハマっていた。

本格的に音楽活動を始めて5年少々。これまでで一番音楽が面白くなってる。「音楽で食っていく」という漠然とした夢じゃなく、明確な目標を持ったのが初めてだったというのもあったのだろう。そこへ少しずつでも近いてる手応えを感じる事が更に俺を後押ししてくれる。

その目標はもちろん、来年のゴールドフィンガーズキッチンに出場して優勝する事だ。

to be continued

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