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KING OF FLIP総評・後編

ビートメイカーパフォーマンスバトル、KING OF FLIP。予選を終えて16人を入念に審査。

審査員3人の胃が痛くなるような苦悩を経て、決勝まで進む4人が選ばれた。

Doramaru
暴走族のエンジンサンプリングとテクノグルーヴで予選開始でいきなり会場を暖めた男で、楽曲的には最も硬派かつストイック。

MPC Girl USAGI
キャッチーかつハイクオリティな楽曲と場慣れした会場巻き込み型パフォーマンスで予選突破。

おの
今大会随一のミックスバランスと安定感抜群のリズムキープで存在感を放つ。

Shogun Beatz
長年のキャリアに裏付けされた…などという決まり文句すら生温い図太いビートと圧倒的スキルを見せつけた。

では早速セミファイナルの解説を。

Doramaru VS MPC Girl USAGI

Doramaru
ドラムマシンのような正確さで繰り出す人力テクノプレイは圧巻の一言。拍頭が分からないまま少し音が重なってスパークする展開を丹念に演奏する様は職人的だった。極限まで少ない音ながら一つ一つの音が十分な鳴りをしていて踊れるサウンド。

MPC Girl USAGI
遅めで土臭いファンクをベースにしたダンスミュージック。いかついけど華やかなあまり聴かないサウンド感が新鮮で、途中に敢えて手数を減らして手を振るなどパフォーマンス性も抜群。

終始審査員達は狂いそうになるほど悩んでいたが、結果として駒を進たのはMPC Girl USAGI。見せ方や楽曲展開を総合的に考えてもう一度観てみたいと思わせた。

Doramaruも音の厚みや迫力は勝っていたし、異常なまでのビートキープは容易く会得出来るものではないと感じたが、MPC Liveで出来る事を効果的に楽曲として落とし込めていたMPC Girl USAGIに僅差で持ってかれた、という感じだろうか。

Shogun Beatz VS おの

おの
予選とは打って変わって4つ打ちのエレクトロで華やかに振り切った1曲で勝負。予選の曲もそうだが、今大会で最もプロフェッショナルなミキシングをしている曲だった。音数多めだけども全てが過不足なく聴こえてきてかなり詰めて仕上げて来たように感じた。1ループを多彩な構成で飽きさせないようにしながらドラミング以外の演奏もこなす。2分間で見せられる事しっかり纏め上げていた。

Shogun Beatz
迫力一点突破なサウンドで予選通過したが、ここでは”気持ちよさ”にフォーカスしたビートで勝負。南国を思わせるネタに歪み気味の軽めなドラムキットで煩くないけど手数多めの前半と、Chill目だけどハードな側面も持つBoomBap HIPHOPな後半。特に後半の曲は(動画だと伝わらないが)超重低音のサブベースが心地よく鳴り響いていた。

正直本当に悩んだ。全く別方向のジャンルだが楽曲クオリティは完全に同等。

入念に話し合った結果、Shogun Beatzの勝利。

おのもクオリティやバランス感覚、パフォーマンス性共に最高なのだが、強いて言うなら音の処理にもう1歩”遊び”があったら勝っていた。選んだジャンルに寄る所ではあるがクリアなだけではない特徴的な何か。例えば、全体で纏まっている中にも異物のように入り込んで耳を引く音色の楽器音を入れるような。声ネタでもいい。Shogun Beatzの音にはそういった”印象に残る質感の音”が多かった事でギリギリの勝利を得た。

という訳で、ラストバトルで激突することになったのは、Shogun BeatzとMPC Girl USAGI。
第一回KING OF FLIPの優勝者がこれで決まる。

Shogun Beatz VS MPC Girl USAGI

Shogun Beatz・1st Trun
決勝もやはり2曲セット。間違いない低音の鳴りといかつい上ネタという予選で見せたイメージの曲だった。執拗なまでに繰り返す頭ブレイクの末に次の曲に移行する構成は見事。2ターンあるのでまだ小手調べといった印象。

MPC Girl USAGI・1st Trun
自らの声をネタとしてぶち込む、バトル精神溢れるイントロ。浮遊感のある心地いいビートに後半ドラマティックに絡む琴の音色。とても彼女らしい己のスタイルの再確認のような曲だった。曲調は穏やかだが最初のターンから勝負していたように思える。

Shogun Beatz・2nd Trun
ループを使わないスタイルを活かした楽曲で勝負してきた。ビートの手数もさる事ながら、俺が最も注目した点はメロディ関係を「Note On」でトリガーしていた事(パッドを押している時だけ音が鳴る設定)。大半の人は「One Shot」と言って、叩いたら音が最初から最後まで流れる設定を使う。これで長めのループを流して上からビートを叩くのがベーシックなやり方だ。トラックメイクする時以外ではそれを使う。だがShogun Beatzは押している間だけ音が鳴る事で生じる細切れな独特のグルーヴを駆使して、サンプラーでしかできない音楽を生で演奏し切ったのだ。このお陰で途中でBPMが速くなる展開を無理なく差し込んでいた。俺達が長年積み上げて来た「サンプラーで音楽を手動で演奏する事」の集大成を見せつけたと言える。尚且つちゃんと音楽としてカッコ良かった。そして2曲目は緩い曲で締めるという、自らエンディングを演出するような構成だった。

MPC Girl USAGI・2nd Trun
まさかのドラムソロ。少年誌のラストバトルで、主人公が全ての装備を捨てて拳だけで勝負する的な(メタルギアのスネークとリキッドのラストバトル的な)熱い展開。彼女はドラムの経験があるので、最後は己の持つ最大の武器で挑んだという事なのだろう。多彩な技を見せていくもストイックに振り切らず、お客さんに手を叩かせてそれを導入に始めるなど、最後までショーである事を意識した素晴らしいパフォーマンスだった。

以上で全てのパフォーマンスが終了。

繰り返しになるが、誰が勝っても間違いない。突っ込もうと思えば突っ込めるし、完璧と言ってしまう事も出来た。
実際黄猿くんは「いやコレ延長だよ!!」と言っていた。可能なら俺もそうしたかった。
でも決めないとね。

という事で3人で決めた。

第一回優勝者はShogun Beatz!!

確かにUSAGIのドラムソロは熱いし大いに盛り上がった。だが2分間心を掴み続けるには足りなかった。ドラムだけで勝負するのであれば、ビートだけで聴いていられる程の魅力的な音色が必要だがそこに惜しくも一歩達してなかった印象だ。ビートパターンや派手なフィルインのバリエーションは多かったが、あくまで4/4拍子の中でやっていたので、変拍子とまではいかないまでも違う拍子を行ったり来たりするような驚きが欲しかった。

作り込まれた音楽という意味ではMPC Girl USAGIの1ターン目が何よりも勝っていたが、その場でしか生まれないグルーヴと強烈な個性ではShogun Beatzの「サンプラーを使う意味」を持った上でスキルと楽曲性を備えた2ターン目のパフォーマンスにギリギリ軍配が上がった、という所だった。

とにかくShogun Beatzおめでとう!

恐らくまた来年も開催される。しかし必ずしも彼のスタイルをやれば勝てる訳ではない。あの時あの場所で、Shogun Beatzという男が放ったからこそ勝ったのである。

今回は審査員という立場から色々言わせてもらったが、俺自身まだまだ精進中である。指摘した全てを俺が完璧に実行できる訳ではないし(実際俺のライブではビートキープが甘い瞬間もあったと反省してる。盛り上がりはしたけど)、そもそも俺が言った事が全て正しい訳ではない。というか技術だけで言えば俺より強い奴だらけでワクワクもした。
まだ未成熟で無限の可能性があるカルチャーなので、この大会を見て興味を持った人は是非始めてみてほしい。
俺のような楽器も出来ず楽譜も読めないボンクラも、一つの音楽理論を極めたミュージシャンも、全ての音楽好きを平等にしてくれる不思議な楽器なのだ。

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