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サンプラーバトルの祭典・King Of Flipの感想〜前編〜

今年も開催された、サンプラーバトルKing Of Flip。

審査員にターンテーブリストPACHI-YELLOWが加わり、司会にはNONKEYさんを迎え、去年とはまた違うパーティー感があってシンプルに楽しめるイベントととなった。
そして俺はいつの間にか審査員長という役職に就いていた(当日に)。

出場者のクオリティも全体的に2段階ぐらい上がった印象。
ビートの鳴り、具体的には低音感やバランス感、曲そのもののクオリティが高い出場者が集まった。

今回はまず惜しくも一回戦敗退した者達の良い点と気になった点を紹介していく。一回戦はコンテスト形式で16人から8人を選出する。

正直めちゃくちゃ接戦で突破出来なかった8人が何か圧倒的に劣っていた訳ではない。
似たジャンルやスタイルの人が複数居た時に「強いて言うならこっちかな…」という感じで選出していった。
そしてこのブログではあくまで一人の審査員である俺から見た総評なのでそこを留意しつつ読んでもらいたい。

Sarasa


・ 良かった点
ビートの鳴り、折り返しやアウトロで挟まれる空気のガラっと変わる展開にサンプラーらしい作り込みを感じた。特に”一回メロウにして元のメインとなる展開に戻る”という構成は素晴らしい。タッチ画面のフェイザーエフェクトで軽くリズムを刻むのも斬新。

・気になった点
元の展開に帰ってくるとこまでは良かったのだが、そこからもう一段階盛り上がって欲しかった。ドラムの音色が変わってパターンも変わるような。逆に落とす事で盛り上げるなら一旦展開が変わるとこでブワーっと音が増えてうるさいぐらいになってからめっちゃ音減る展開、みたいな。良くも悪くも渋過ぎたかもしれないので、もっと大仰な展開して落差を意識すると良い。

Lo-Fi Life


・良かった点
Lo-Fi Lifeという名に反して、今大会では居なかったバキバキのグライムで勝負。スネアの低音感などは個人的に好みだった。最後に潔くハイハットはループ出ししてキックとスネアのみを体でグルーヴしながら一発入魂でぶっ叩くパフォーマンス重視の展開が良かった。無理して叩かなくても良いパフォーマンスは出来る。

・気になった点
ビートキープの甘さが各所に目立ち、まだ慣れていない感じが音に出てしまっていた。重い音で遅いドラムパターンなので、ほんの少しでもズレてしまうとカッコ悪く聴こえてしまう難易度の高いジャンルを選んだことが災いした。良いタイミングでハマってる瞬間が少な過ぎた。派手なブリッジなどが挟まった割にぬるっと終わってしまったので、もっとしっかり楽曲を締めて欲しかったと思う(雰囲気的にもベタに爆発音終わりとかでも良い)。

ルサンチ


・良かった点
多くの出演者がハードで悪そうで派手な、言うなれば「バトルと言われてイメージする楽曲」で勝負していたのに対して、己の世界観であろうメロディアスで徹底的にChillなクラブサウンドを展開した事は大きい。特に後半の、上モノは優しげな歌モノでゆったりしつつベースとドラムはしっかり踊れるDrillはシンプルに良質な音楽だった。

・気になった点
16分で速めにハット刻むパターンが明らかに叩き慣れておらず、刻むのに一生懸命過ぎてグルーヴが足りなかった。後半のDrillもノリを掴むのに時間が掛かっていた。無理にドラム全てを演奏せず、ドラムはループ出しして上モノで遊ぶ少々クールな構成にしていたら、楽曲の雰囲気と相まって良い印象を残したかもしれない。

サンハイツ208


・良かった点
さすが前回出場者かつその後もライブを重ねてるだけあって、早いテンポをキープする安定感は抜群。会場が盛り上がる構成を心得ている。ドラムソロへの入り方や一旦ブレイクして自分の声で「1、2!」とカウントして入る辺りは個人的にツボ。人力で演奏してるならではのパフォーマンスと言える。

・気になった点
複雑なフィルインなどを織り交ぜているものの、ドラムパターンが良くも悪くも一辺倒な印象が残る。基本的に激しい展開が多いので、もっとビートが減る場面を活用しつつ、最後の盛り上がる箇所などでもう一段階ボルテージを上げるなど、もう一工夫欲しかった所。

おの


・良かった点
前回出場した時もそうだったが、アーティストとして踏んだ場数がそのまま音とグルーヴに現れていた。鳴りと演奏力に安定感のあるビートの中で時折挟むテクニカルなドラムのフィルインは、ストイックな中にも攻め姿勢を感じる絶妙なバランス。

・気になった点
2分の壮大なインスト作品を淡々と演奏しているのをどう捉えるかの問題だとは思う。良く言えばストイック、悪く言えばとりつくしまがない。コンテスト形式である一回戦で見せるにはもう少しエンターテイメント性を覗かせて欲しかった所。名目上バトルとされている場所でやる難しさだと思う。あと最後どうやらミスって終わったようだが、そこはドヤ顔で「こういう曲っす」って終われば何も問題無かった。ミスを無かった事にするのもスキルの一環。

Ness


・良かった点
前回出場者。相変わらず己の世界観全開で、最初の1分間ほぼ身動きしないパフォーマンスとビジュアル感に否が応でも引き込まれる。歪み切ったドラムを主体にギリギリ音楽として成立しているビートを文字通り体全体使って爆発の如く演奏するこのスタイルは、サンプラー演奏界隈で唯一無二である。あと意外にドラムの鳴りはしっかりしているので確信犯的にぶっ壊れた音楽を表現してると思われる。

・悪かった点
前回の敗退理由と同じになるが、やはり2分間聴くには少々尖り過ぎてしんどかった。ぶっ壊れているカッコ良さはあるが、そのぶっ壊れた音を使ってもう少し音楽的強度を感じる要素が欲しかった。キャッチーなメロディとかは要らないけど、シンプルにカッコいいフレーズのベースラインが途中から入る、とかなのかな。

ジョンピーチ


・良かった点
本人の得意分野なのか、今大会でメロ感は1番良かった。オシャレの極みのような雰囲気でバトルというより良いライブをしに来た印象。途中パッドで和音を弾く辺りでそれが最高潮に達する。

・気になった点
音のチョイスは悪くないものの、Spliceなどの素材をそのまま使っているせいか、音色の作り込みや組み合わせの吟味が足りないように感じた。具体的に言うとドラムとそれ以外が混ざらずに分離し過ぎていた印象。ゆるっとした雰囲気の曲なので、演奏の拙さが悪目立ちしてしまってるのも惜しかった。

NANA


・良かった点
パッと聴いて多くの人が「良い曲だ!」と感じ易い王道的なコード進行、いかついビートの場面もありつつひたすらスムースにも聴けるという絶妙なバランス感覚。演奏の安定感が成せる技である。パターンは派手だけど聴き心地は落ち着いている。長く見ていたくなるパフォーマンスだった。

・気になった点
良かった点がそのまま裏返る形になってしまうが、ずっと聴ける王道的なスムースさは地味な印象にも繋がっていた。音のバランスは良いが、もう少し攻めたフレーズや音色を使って耳に残る音楽を奏でていたら違う結果になっていたかもしれない。その辺の案配は上記のおのと似ていた。

以上が一回戦で俺の抱いた感想。

「そう思ったならこの人勝ってるのでは?」という箇所もあると思うが、俺とはまた別の視点で見ていたPACHI-YELLOW、黄猿、KODEE ONEの4人で意見を交えてこの結果に至った。

今年はレベルが高いので優勝者と一回戦敗退者の間にはそこまで圧倒的な差は無かった。
細かいテクニックや音作り、言うなればアーティストととしての強度に関しては経験の差が出るので、その僅差によって勝敗が別れた気がする。

でもみんな最高だったぜ。今後はバトルに拘らずに、15分ぐらいのショーを意識したビートライブなどを目指して精進してもらいたい。そしてそれを見たい!お互いに頑張っていきましょう。

さて、次回は2回戦以降のバトルの感想を書き綴ります。

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